CCライセンスとは?近年の学術出版で重要視される理由

こんにちは。編集長の堀田です。
 
みなさんはクリエイティブ・コモンズ・ライセンス(以下、「CCライセンス」)について知っていますか?
学術の世界においては、「オープンアクセス」と一緒に語られることが多いワードなので、近年ますます耳にする機会が多くなっているのではないでしょうか?
この記事では、CCライセンスに関する初歩的な内容から、学術出版における重要性、国内学会での導入事例まで紹介しています。
CCライセンスのことをまったく知らないという方も、CCライセンス自体は知っているが、自学会でどのように取り入れれば良いか分からないという方も参考にできる記事になっていますので、ぜひご覧ください。
 

📣
Editorial Manager®オンライン説明会開催のお知らせ【7月15日(火)、7月24日(木)】
論文投稿・審査システム『Editorial Manager®』のオンライン説明会の開催が決まりました!
投稿審査システムを使ったジャーナルの編集工程の効率化に興味がある方はお気軽にご参加ください。

 
1. CCライセンスとは何か?著作物の再利用に関する意思表示をしたもの権利放棄との違いCCライセンスがあると便利なこと2. CCライセンスの種類4つの基本要素6種類のライセンス①CC BY:表示のみ(最も自由度が高い)②CC BY-SA:表示-継承③CC BY-ND:表示-改変禁止④CC BY-NC:表示-非営利⑤CC BY-NC-SA:表示-非営利-継承⑥CC BY-NC-ND:表示-非営利-改変禁止(最も制限が多い)CC0(シー・シー・ゼロ)という選択肢3. 学術出版においてCCライセンスが必要とされる理由オープンアクセスの成立要件を満たすため研究成果の流通を促進するため4. CCライセンスの導入を検討する際のポイント採用するライセンスは慎重に検討する1つのジャーナルでライセンスを統一しなくても良いCCライセンスと衝突する規定が無いか見直す他学会の事例を把握しておく5. 実際の学会の事例①日本スポーツ理学療法学会『スポーツ理学療法学』②日本神経理学療法学会『神経理学療法学』③日本移植学会『移植』④日本鉄鋼協会 『鉄と鋼』・『ISIJ International』⑤日本食品科学工学会『日本食品科学工学会誌』・『Food Science and Technology Research』⑥日本機械学会 『日本機械学会論文集』⑦日本消費者教育学会『消費者教育』・『消費者教育実践リポート』⑧言語文化教育研究学会『言語文化教育研究』6. さいごに

1. CCライセンスとは何か?

著作物の再利用に関する意思表示をしたもの

CCライセンスとは、著作物の再利用に関する著作者の意思表示を手軽に行えるようにするための国際標準的なライセンスです。つまり、著作者が著作権を保持したまま、「(一定の条件の下で)自由に再利用していいですよ」と示すことができる手段です。(「一定の条件」については「2. CCライセンスの種類」で説明します)
著作者側のメリットとしては、自分の著作物が広く人の目に触れる可能性を増やすことができ、使用する側のメリットとしては、いちいち著作者に確認をとらなくても、一定の条件を満たせば著作物を自由に使える、ということになります。

権利放棄との違い

よく混同されがちですが、CCライセンスは著作権を放棄するものではありません。著作権は著者や出版者に帰属したままであり、再利用に関して一定の条件を設ける点が特徴です。
著作権制度のもとでは、従来は著作権を完全に保持する(Copyright)か、著作権の保護対象外とする状態(Public Domain)とするという、両極端な選択しかありませんでした。 しかし、それでは作品を広く再利用してもらうことが難しい場面も多かったため、著作権を保持したまま一定の条件で再利用を認める柔軟な仕組みとして、CCライセンスが誕生しました。

CCライセンスがあると便利なこと

学術の世界においては、「巨人の肩の上に立つ」という言葉もある通り、過去の研究(≒著作物)を引用して再利用することで発展を繰り返してきました。
しかし、その「巨人の肩」にあたる先行研究が著作権でガチガチに守られていると、他の研究者が活用することが難しくなり、研究の発展を妨げてしまいます。
かといって著作権を放棄するわけにもいかないので、このような時にCCライセンスが必要になります。
  • 「この研究成果は誰でも使っていいですよ」
  • 「ただし、出典は明示してくださいね」
といったように過去の知見を自由に引き継ぎ、未来の研究につなげるための架け橋になるのも、CCライセンスの重要な役割の1つと言えます。

2. CCライセンスの種類

ここからは、実際にCCライセンスでどのような「再利用に関する意思表示」ができるのか見ていきます。

4つの基本要素

まず、CCライセンスは、以下の4つの要素を組み合わせることで構成されます。
  • BY(表示):作者や作品に関する情報を表記すること。
  • NC(非営利):営利目的で利用しないこと。
  • ND(改変禁止):作品を改変しないこと。
 
  • SA(継承):作品を改変しても良いが、改変して作った新しい作品も同じライセンスで公開すること。

6種類のライセンス

実際のライセンスは上記の4つの要素の組み合わせによって、以下の6種類に分かれます。

①CC BY:表示のみ(最も自由度が高い)

出典:https://creativecommons.jp/about/downloads/
出典:https://creativecommons.jp/about/downloads/
原作者のクレジット(氏名、作品タイトルなど)を表示すれば、営利・非営利を問わず、改変や再配布を自由に行うことができる、最も自由度の高いライセンスです。
多くのオープンアクセスジャーナルで推奨されているライセンスでもあります。
「著作権が私にあることが伝わればそれでいい。」という場合に適しています。

②CC BY-SA:表示-継承

出典:https://creativecommons.jp/about/downloads/
出典:https://creativecommons.jp/about/downloads/
原作者のクレジット(氏名、作品タイトルなど)表示に加えて、改変した場合には元の作品と同じCCライセンスで(つまり、CC BY-SAで)公開することを守れば、営利目的での二次利用も許可されるライセンスです。
「私が自由に使えるようにしたのだから、あなた(改変・二次利用した人)も同じ自由を他の人に与えてね。」という場合に適しています。

③CC BY-ND:表示-改変禁止

出典:https://creativecommons.jp/about/downloads/
出典:https://creativecommons.jp/about/downloads/
原作者のクレジット(氏名、作品タイトルなど)表示に加えて、元の作品を改変しなければ、営利・非営利問わず利用できるライセンスです。
「自由に使っていいけど、改変されると困るな。」という場合に適しています。

④CC BY-NC:表示-非営利

出典https://creativecommons.jp/about/downloads/
出典https://creativecommons.jp/about/downloads/
原作者のクレジット(氏名、作品タイトルなど)表示に加えて、非営利目的であれば、改変したり再配布したりすることができるライセンスです。
「自由に使っていいけど、商売には使わないでほしいな。」という場合に適しています。

⑤CC BY-NC-SA:表示-非営利-継承

出典:https://creativecommons.jp/about/downloads/
出典:https://creativecommons.jp/about/downloads/
原作者のクレジット(氏名、作品タイトルなど)表示に加えて、非営利目的で、かつ改変を行った場合には元の作品と同じCCライセンスで(つまり、CC BY-NC-SAで)公開することを守れば改変したり再配布したりできるライセンスです。
「商売に使わなければ自由に使ってね。ただし、あなた(改変・二次利用した人)も同じ自由を他の人に与えてね。」という場合に適しています。

⑥CC BY-NC-ND:表示-非営利-改変禁止(最も制限が多い)

出典:https://creativecommons.jp/about/downloads/
出典:https://creativecommons.jp/about/downloads/
最も制限が多いライセンスで、原作者のクレジット(氏名、作品タイトルなど)表示に加えて、非営利目的で、かつ改変しないことを守れば自由に再配布できるライセンスです。
「そのまま使うなら商売に使わない前提で許可するよ。」という場合に適しています。

CC0(シー・シー・ゼロ)という選択肢

厳密にはCCライセンスには含まれませんが、クリエイティブ・コモンズが提供しているもう1つの手段として、CC0があります。
CC0は著作権を自発的に放棄するための手段です。著作権に関連するあらゆる権利を放棄するため、CC0が宣言された著作物はクレジットを明記することなく、商用利用や改変含め自由に利用することができます。
学術の世界では、論文に対してCC0が採用されることは非常に稀ですが、研究データ等に対してCC0が採用されることがあります。

3. 学術出版においてCCライセンスが必要とされる理由

それでは、学術出版においてCCライセンスが必要とされるのはなぜでしょうか?
近年、特にCCライセンスが重要視されるのには理由があります。

オープンアクセスの成立要件を満たすため

冒頭でもお伝えした通り、CCライセンスとオープンアクセスはセットで語られることが多いワードです。
オープンアクセスとは、研究成果を無料で誰でもアクセス・"再利用“できるようにする仕組みです。
その成立には、単に無料公開するだけでなく、再利用を可能にする明示的なライセンス、つまりCCライセンスなどの採用が必要となります。
💡
参考:CCライセンスはオープンアクセスの成立に"必須“なのか?
オープンアクセスの成立には、無料で誰でもアクセスできるようにすることに加えて自由に再利用できるようにすることが必要です。逆に言えば、再利用に関する条件等が明示されていれば、CCライセンスが無くてもオープンアクセスを成立させることは可能です。
ただし、独自のやり方で再利用に関する条項を設けるより、CCライセンスのように標準化された枠組みのほうが導入が容易です。
また、欧州のオープンアクセス出版への取り組み「Plan S」など、CC BYライセンスでの公開を必須としている枠組みもあるため、CCライセンスを導入したほうがあらゆる事態に対応しやすいのが現状です。
今年度(2025年度)から始まった即時オープンアクセス義務化をはじめ、オープンアクセスに対する機運が高まっているという背景もあり、CCライセンスに対する注目度も高まっています。
即時オープンアクセス義務化方針については以下の記事をご覧ください。

研究成果の流通を促進するため

先の説明でも触れましたが、CCライセンスは著作物を世の中に広めていくために役立つ仕組みです。
いくら著作者自身が「この論文を自由に利用して新たな研究に役立ててほしいな」と思っていても、ライセンス表示が無いと利用者は「この論文は再利用に関する条件が書かれてないから利用するのはやめておこう」となってしまいます。
CCライセンスは著作物の再利用を「制限する」ためにも有効ですが「明示的に許可する」ためにも有効な手段なのです。

4. CCライセンスの導入を検討する際のポイント

採用するライセンスは慎重に検討する

CCライセンスには先述した6種類があるため、目的に応じた選択が必要です。例えば教育目的で広く使われたいならCC BY、営利利用を避けたいコンテンツはNCを含める、などです。
ただし、CCライセンスは一度公開すると後から変更できません。安易に決めてしまうと、想定外の制限が課されてしまう場合もあります。
例えば、改変により意図しない伝わり方をすることを避けたいならND(改変禁止)を付ければ安心と思われがちですが、NDでは翻訳も制限されるため、他言語での情報流通を妨げることにもなります。
そのライセンスではどういう使われ方がされ得るのかを理解して選択することが大切です。

1つのジャーナルでライセンスを統一しなくても良い

1つのジャーナルではすべて同じライセンスを適用しなくてはならないと思われがちですが、実際には号ごと・論文ごとに異なるCCライセンスを設定することも可能です。統一することが難しければ、論文の投稿時や採択時に著者の希望により複数のライセンスから選択できるようにしておくことも一つの選択肢です。

CCライセンスと衝突する規定が無いか見直す

CCライセンスの内容と、投稿規定や著作権ポリシーが矛盾しないように注意しましょう。
たとえばCC BY-ND(表示-改変禁止)などで「改変しなければ二次利用して良い」というライセンスを採用しているにも関わらず、投稿規定には「転載等による記事の利用にあたっては本誌の承認を必要とする」としている場合などは矛盾が生じるため、規定の見直しが必要です。
ただし、CCライセンスはあくまで「この範囲であれば著作権者に許諾を得なくても利用できる」ということを示しているため、範囲外のことは個別に許諾を取ることで可能とすることもできます。たとえばCCライセンスでは商用利用を禁止しているが、投稿規定では「商用利用する際は本誌の許諾が必要」としている場合、一見矛盾しているように見えますが、これは問題ありません。

他学会の事例を把握しておく

これらのポイントを検討するためにも、他学会の事例を知ることは大切です。
採用するライセンスや投稿規定などが参考になるだけでなく、編集委員会や理事会で議論を進めるうえでも他学会の事例は役立ちます。
次の節では実際の学会の事例を紹介するので、参考にしてみてください。

5. 実際の学会の事例

ここからは実際にCCライセンスを導入している学会の事例をご紹介します。
どのライセンスを採用しているのか、どのような規程になっているのかなど、自学会で検討する際の参考になるかと思います。

①日本スポーツ理学療法学会『スポーツ理学療法学』

2023年3月1 日以降に公開されるすべての著作物にCC-BYライセンスを導入しています。

②日本神経理学療法学会『神経理学療法学』

2024年6月20日からCC-BYライセンスを導入しています。

③日本移植学会『移植』

2016年11月24日からCC BY-NC-ND(表示-非営利-改変不可)ライセンスを導入しています。これは国内の早期事例の一つです。

④日本鉄鋼協会 『鉄と鋼』・『ISIJ International』

掲載記事はCC BY-NC-ND(表示-非営利-改変不可)ライセンスの条件の下で掲載されますが、著者の希望によりCC BYライセンスで掲載することもできるようになっています。

⑤日本食品科学工学会『日本食品科学工学会誌』・『Food Science and Technology Research

CC BY-NC-SA(表示-非営利-継承)ライセンスを導入しています。
即時オープンアクセス・認証付きオープンアクセスを選択可能とするハイブリッドジャーナルであることが大きな特徴で、掲載料に追加費用はかかるものの、即時オープンアクセス義務化方針にも対応できるようになっています。

⑥日本機械学会 『日本機械学会論文集』

2021年8月1日以降に投稿された論文について、CC BY-NC-ND(表示-非営利-改変不可)ライセンスを採用しています。

⑦日本消費者教育学会『消費者教育』・『消費者教育実践リポート』

即時オープンアクセス義務化に対応するため、2024年8月31日にCC BY-NC(表示-非営利)の採用が決定しました。
なお、非営利のライセンスですが、営利目的で利用する場合は学会の許可をとることで利用可能となるとのことです。

⑧言語文化教育研究学会『言語文化教育研究』

投稿規定・執筆要領の関連資料「著作権規程」に「本会が著作権を有する著作物は」という条件でCC BY-SA(表示-継承)ライセンスに基づいたオープンアクセスとする旨の記載があります。

6. さいごに

実際の学会の事例を見ていただくと分かるように、どのCCライセンスを採用しているかは学会によって様々です。これという正解があるわけではなく、学会の目的や研究分野に応じて適切な選択が変わってくるので、まずはライセンスの特徴を正しく理解することが大切です。
この記事がそのための一助となれば幸いです。
当コラムについて
「IT×学術」で研究者を支援する株式会社アトラスが運営する当コラムでは、学会運営に関するお役立ち情報を発信中!
「学術大会」「会員管理」「ジャーナル」という重要度の高い3つのカテゴリを軸に、学会運営に関わるすべての方の疑問やお悩みを解消することを目指しています!
詳細はこちら