即時OA(オープンアクセス)義務化とは何なのか?ポイントを整理して解説します

こんにちは。学会向けお役立ちコラム編集長の堀田です。
みなさんは内閣府により方針が示されている即時OA(オープンアクセス)義務化についてご存知ですか?
この方針は今後の研究活動や学会活動に大きな影響を与える可能性があるものです!
この記事では即時OAの義務化について
「なんとなく聞いたことあるけどちゃんと理解できていない」
「結局何をしないといけないのか分からない」
という不安をお持ちの方に向けて解説します。
手短に要点だけ知りたいという方のために、冒頭で簡単にまとめておきます。詳細を知りたい方は記事を読んでいただけますと幸いです。
即時OA(オープンアクセス)義務化の要点まとめ
- 2025年度から一定の条件を満たす公的資金を用いた研究成果は即時OA(オープンアクセス)が義務化される
- 条件とは「特定の競争的研究費を受給していること」と「査読付き論文及び根拠データであること」
- 実現方法は「機関リポジトリ等の情報基盤」への掲載
- 暫定的な方策も多く、今後の動きには注視が必要
即時OA(オープンアクセス)義務化の概要内閣府の情報まとめ(2025年2月時点)即時OA(オープンアクセス)義務化の詳細即時OA(オープンアクセス)の対象となる条件は?1. 2025年度から新たに公募を行う特定の競争的研究費を受給して研究していること2. 査読付き学術論文及び根拠データであることオープンアクセスの定義は?「義務」とは?「機関リポジトリ等の情報基盤」とは?学会が対応すべきことは?さいごに
即時OA(オープンアクセス)義務化の概要
この中の実施事項の1つとして掲げられたのが、以下の内容です。
公的資金のうち2025年度から新たに公募を行う即時オープンアクセスの対象となる競争的研究費を受給する者(法人を含む)に対し、該当する競争的研究費による学術論文及び根拠データの学術雑誌への掲載後、即時に機関リポジトリ等の情報基盤への掲載を義務付ける。
これが、今回のテーマである「公的資金による研究成果の即時オープンアクセスの義務化」です。
ただ、この引用文だけではなかなか解釈が難しいかと思いますので、その後に発表された内容も踏まえながら紐解いていきたいと思います。
内閣府の情報まとめ(2025年2月時点)
説明に移る前に、内閣府から現在出ている情報をまとめます。
公開日 | 資料名およびリンク | 備考 | |
---|---|---|---|
1 | 2024年2月16日 | 学術論文等の即時オープンアクセスの実現に向けた基本方針 | 以下、「基本方針」と表記 |
2 | 2024年2月21日 | 学術論文等の即時オープンアクセスの実現に向けた基本方針の実施にあたっての具体的方策 | 2024年10月8日改正 以下、「具体的方策」と表記 |
3 | 2024年4月25日~26日 | 日本の学術論文等のオープンアクセス政策について | 同日に開催された意見交換会の当日資料 |
4 | 2024年7月9日 | 学術論⽂等の即時オープンアクセスの実現に向けた基本⽅針、及び学術論文等の即時オープンアクセスの実現に向けた基本方針の実施にあたっての具体的方策に関するFAQ | 2024年10月8日更新 以下、「具体的方策に関するFAQ」と表記 |
本記事では主に上記の情報を基に要点をまとめていますので、より正確な情報を知りたい方は上記資料をご覧いただければと思います。
即時OA(オープンアクセス)義務化の詳細
先ほど引用した基本方針の一文をもう一度引用します。
公的資金のうち2025年度から新たに公募を行う即時オープンアクセスの対象となる競争的研究費を受給する者(法人を含む)に対し、該当する競争的研究費による学術論文及び根拠データの学術雑誌への掲載後、即時に機関リポジトリ等の情報基盤への掲載を義務づける。
これを読むと「どうやら2025年度から対象の競争的研究費を使った研究の成果は即時にオープンアクセスを実現しないといけないらしい」ということは分かります。一方で「該当する競争的研究費とは?」「オープンアクセスの定義は?」「機関リポジトリ等の情報基盤って?」といった疑問が生まれます。
以下でそれらの疑問に回答していきます。
即時OA(オープンアクセス)の対象となる条件は?
まず押さえておかなければならないことは、「即時OA義務化」とは言っても、何でもかんでも即時OAしなくてはならないわけではないということです。
条件は大きく以下の2点です。
即時OA(オープンアクセス)の対象となる条件
- 2025年度から新たに公募を行う特定の競争的研究費を受給して研究していること
- 査読付き学術論文及び根拠データであること
1. 2025年度から新たに公募を行う特定の競争的研究費を受給して研究していること
一つ目の条件が、「2025年度から新たに公募を行う特定の競争的研究費を受給して研究していること」です。これだけでもなんだかややこしいのですが、まず「特定の競争的研究費」とは現時点で以下の4つの制度を指しています。(参照:具体的方策の「1. 即時オープンアクセスの対象となる競争的研究費制度」)
府省名 | 資金配分機関 | 制度名 | |
---|---|---|---|
1 | 文部科学省 | 日本学術振興会 | 科学研究費助成事業 |
2 | 文部科学省 | 科学技術振興機構 | 戦略的創造研究推進事業 |
3 | 文部科学省 | 日本医療研究開発機構 | 戦略的創造研究推進事業 (革新的先端研究開発支援事業) |
4 | 文部科学省 | 科学技術振興機構 | 創発的研究支援事業 |
そのうえで、「2025年度から新たに公募を行う」ものが対象なので、上記に該当する競争的研究費を受給していても、2024年度以前に公募が行われたものは対象外となります。(具体的方策に関するFAQの質問番号1)
そのため、実際に即時OAの対象となる論文が出てくるのはまだ少し先のことになりそうですね。(公募→支給決定→交付→研究→論文投稿→公開までのリードタイムがあるため)
2. 査読付き学術論文及び根拠データであること
条件1に該当する研究であっても、研究成果となる学術論文が査読無しで公開されるものであれば、即時OAの対象にはなりません。
また、今回の方針には論文そのものだけでなく、その根拠となる研究データも対象となっています。しかし、これは今まで公表する必要のなかったデータの公表を求めるものではなく、あくまで「論文を掲載するジャーナルの規定として公表が求められるデータであれば、論文とセットでオープンアクセスにしなさい」というように柔軟さを持たせているようです。(具体的方策に関するFAQの質問番号4)
オープンアクセスの定義は?
一般的にオープンアクセスとは「インターネットを通じて無料でアクセスできることに加えて、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス等で利活用の範囲が明示されている状態」を指すことが多いです。
しかし、今回の方針においては当面の間、電子ジャーナルへの掲載後、即時にインターネットを通じて無料でアクセスできれば、基本方針における即時オープンアクセスに対応したものとみなすとされています。(具体的方策に関するFAQの質問番号8)
ただし「当面の間」とある通り、将来的にこの基準が変わる可能性も考えられるため、ライセンス表示の選択ができる媒体に著作物を掲載する場合、今のうちからライセンス表示に対応しておいた方が無難と言えます。
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CCライセンス)とは?
著作物の適正な再利用の促進を目的として、著作者がみずからの著作物の再利用を許可するという意思表示ができるライセンス。
「表示」「非営利」「改変禁止」「継承」の4つの基本要素を組み合わせることで、どの範囲までの利活用を許可するかを示すことができる。
「義務」とは?
基本方針では「競争的研究費を受給する者(法人を含む)に対し(中略)義務づける」とされています。
つまり、今回の方針は競争的研究費の受給者に対して義務を課しているものであって、学会や出版社などのジャーナルの発行者にエンバーゴ期間の廃止を求めたり、オープンアクセス誌への移行を求めるものではないということです。
また、「義務」ではあるものの、ジャーナルの規定でエンバーゴ期間が存在する場合など、即時OAの実現が困難な場合の対応についても具体的方策に記されています。
そのような場合は、「各年度の実績報告の際に、当該学術論文及び根拠データの即時オープンアクセスの実施が困難な理由を報告する」必要があるとのことです。(具体的方策の「3. 即時オープンアクセスが困難な学術論文及び根拠データの取り扱いについて」)
逆に言えば、現時点では「エンバーゴ期間が設定されているジャーナルには投稿できない」というような強力な制限は課しておらず、そのような場合は理由を報告すれば良いということになります。
ただし、「受給者は研究成果の発表にあたっては即時オープンアクセスの実施に最大限努めることとする」「即時オープンアクセスの実施が困難な理由が解消された場合は、速やかに『機関リポジトリ等の情報基盤』への掲載を行うものとする」といった記載もあるため、「報告したからOK」とはならないことに注意が必要です。
また、これらは今後の方針で変わる可能性があることにも併せて注意が必要です。
エンバーゴとは?
ジャーナルに掲載された論文全文の閲覧を一時的に制限したり、著者による公表を差し止めること。
ジャーナルの出版元の利益確保のため、公開から一定期間は有償でのみ購読可能とし、一定期間経過後に無償でも購読可能にする場合に、この期間のことを「エンバーゴ期間」と呼ぶ。エンバーゴ期間は2、3か月から数年まで様々なパターンがある。
「機関リポジトリ等の情報基盤」とは?
基本方針によると、即時オープンアクセスを実現する掲載先は「機関リポジトリ等の情報基盤」となっています。
これは、原則として機関リポジトリへの掲載を求めているものの、機関リポジトリが整備されていない機関もあるため、例外的にそれ以外の方法も認めるということだと思われます。
(機関リポジトリ以外の情報基盤への掲載)
- NII RDC 上で学術論文及び根拠データを検索可能である分野別リポジトリ等に掲載した場合
- NII RDC 上で学術論文及び根拠データが検索できないプラットフォームに掲載した際に、資金配分機関への実績報告に学術論文及び根拠データの識別子を記載し、資金配分機関の研究課題データベース等を通じて、NII RDC 上で学術論文及び根拠データを検索可能とした場合
- Jxivや科学技術振興機構(JST)が開発するリポジトリ((仮称)GRANTS Data)に学術論文及び根拠データを掲載した場合
- 学術出版社等の電子ジャーナル上で学術論文及び根拠データを即時オープンアクセスとした際に、資金配分機関への実績報告に学術論文及び根拠データの識別子を記載し、資金配分機関の研究課題データベース等を通じて、NII RDC 上で学術論文及び根拠データを検索可能とした場合
- その他の手段により、NII RDC 上で学術論文及び根拠データを検索可能とした場合
現時点ではあまり具体的に書かれていないので、このあたりは実際に運用していく中で固まっていくのではないかと思われます。
一つ言えるのは、内閣府としてはNII RDC上で検索可能であることを重視しているようです。
例えば「研究室のホームページ等に論文を公開した場合」などは、前項の「オープンアクセスの定義」には当てはまっているものの、そのままではNII RDC上で検索可能な状態ではないため、何らかの対応が必要とのことです。(具体的方策に関するFAQの質問番号12)
NII RDC(NII Research Data Cloud)とは?
国立情報学研究所(NII)が開発・運営するオープンサイエンスを推進するための研究データ基盤。2017年から開発され、2021年に本格運用が開始された。
「管理基盤(GakuNin RDM)」「公開基盤(WEKO3)」「検索基盤(CiNii Research)」の3つの基盤から成り、研究データの効率的な利活用を促進している。
機関リポジトリとは?
大学や研究機関がそこに所属している研究者の成果物を集積し、保存・公開するためのインターネット上のアーカイブシステムのこと。
機関リポジトリはNII RDCを使用していることが多く、機関リポジトリに掲載することで自動的にNII RDC上で検索可能な状態となる。
学会が対応すべきことは?
以上で即時OA義務化方針の大枠は掴んでいただけたでしょうか?
先述のとおり、今回の「義務化」は競争的研究費の受給者である研究者側の義務のため、現時点ではジャーナルを発行する側に対して明示的に対応を求められていることはありません。
一方で、今回の方針に関しては「無料でアクセスできるだけでオープンアクセスとみなしてよいのか」などの疑問の声も挙がっているようです。
これらのことを踏まえると、今後運用を進める中で方針が変わり、ジャーナル側に何らかの対応を求める可能性もあります。
いずれにしても、今の段階で「何もしなくていいんだ」とは考えず、今後の動きを注視しておく必要がありそうです。
現時点でできることとしては、ジャーナルの投稿規定にグリーンOA(著者自身が論文を機関リポジトリ等で公開すること)への対応やエンバーゴ期間の有無について明記されていない場合は明記しておく、CCライセンスを付与する、といった対応をしておくと即時OAを気にする投稿者からの問い合わせを減らせるのではないかと思います。
さいごに
カクタス・コミュニケーションズ社の2024年8月27日~9月6日の調査によると、即時OA義務化の基本方針について「知らなかった」と回答した研究者は71%にも上り、まだまだこのことは研究者にも浸透していないことが分かります。
義務化の当事者である研究者に浸透しないまま施策が始まってしまうと、ジャーナル運営にも混乱をきたす恐れがありますので、この記事によって少しでも即時OA義務化に対する理解が広まれば幸いです。
また、今回の方針は実運用に照らし合わせるとまだまだ不明瞭なところも多いため、我々も今後の動きを注視し、必要なタイミングで適切な情報提供ができればと思っております。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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