【後編】目指せPubMed掲載!医学系ジャーナルがPubMedに掲載されるためには?

現在アトラスは、おかげさまでさまざまな分野の学協会様とつながりがあります。 その中でも医学系の学協会様からは「PubMed(パブメド)」についてご相談いただくことがあります。
 
医学系の文献を探す際に多くの方が利用している「PubMed」で論文が検索できるようになるには、どのようなプロセスがあるのか。
【前編】の「PubMed」の歴史や「MEDLINE」の概要から、今回の【後編】では「PubMed Central(以下PMC:ピー・エム・シー)」と実際にアトラスがサポートしたジャーナルの事例も踏まえ、「PubMedで論文が検索されるようになるまで」についてお伝えしたいと思います。
 
 

「PMC」とは何か:運営や関連性について解説

「PMC」は、MEDLINEを管理・運用しているアメリカ国立医学図書館(以下:NLM)の1部門として設立されたアメリカ国立生物工学情報センター(以下:NCBI)が管理・運用しているデータベースのオープンアクセスオンライン論文アーカイブです。
図1 各機関による運営の違い
図1 各機関による運営の違い

PMC誕生までの歴史

1989年のノーベル受賞者(生理学・医学賞)であり,アメリカ国立衛生研究所(NIH)の所長でもあったハロルド・ヴァーマス氏が,1999年3月に生物医学分野で発表された研究成果に無料でアクセスできるオンラインサービスを提案したことがきっかけで「PubMed Central:パブメド・セントラル」 が作られました。
2000年2月からサービスを開始し、現在(2025年12月時点)収録されてる論文数は1,150万以上となっています。
「PubMed Central」は、MEDLINEやPubMedのような書誌情報(メタデータ)を収録したデータベースではなく、書誌情報(メタデータ)に加えて本文情報も含めたデータベースとしてジャーナルを収録しているため、オンラインジャーナル化を実現できるようになっています。
そして「PubMed Central」にジャーナルを掲載するとPubMedの検索対象にも含まれるため、世界中の研究者へ論文の閲覧機会が飛躍的に広がります。

「PubMed Central」から「PMC」へ

さて、この「PubMed Central」ですがサービス名に「PubMed」がついているので、本家「PubMed」との違いがわかりずらく、2012年8月にNLMが「PubMed」との混乱を避けるため、「PubMed Central」の名称を「PMC」へ変更すると発表しました。 ※引用元:カレントアウェアネス・ポータル
ただ、PMCへ変更した2012年当時のトップページは図2のように似ていますし、
図2 PMC(左)とPubMed(右)の変更当時のトップページ
図2 PMC(左)とPubMed(右)の変更当時のトップページ
長年「PubMed Central」として浸透していたせいか、その後リニューアルされた「PMC」のウェブサイトは、図3のようにいまだ「 PMC PubMed Central®」 と記載されています。
図3 PMC(左)とPubMed(右)のリニューアル後のトップページ
図3 PMC(左)とPubMed(右)のリニューアル後のトップページ

PMCの選定方法および選定基準

それでは、「PMC」に収載されるジャーナルはどのように決まるのでしょうか。
「PMC」に掲載されるには、MEDLINE のような厳しい審査はありませんが、一定の選定基準に達していることが採択の条件となります。また「科学的な価値」と「デジタルデータを作成するための技術」が必要とされています。

カギとなるのはサンプルデータの評価

採択の条件の1つ「デジタルデータを作成するための技術」として、「PMC」が品質基準として指定するNLM DTDという規格に基づくXMLファイルの論文データを、発行元が自ら作成し提供できることが前提となります。
そのため、申請後「科学的な価値」としての審査基準をクリアーした場合は、技術評価としてJ-STAGEとは異なる「NLM」のDTDに準拠した全文XML形式のサンプルデータを提出し、事前にXMLファイルを検証してもらう必要があります。
※出典:PMC Application and Evaluation Process
※出典:PMC Application and Evaluation Process
事前の検証に必要なサンプルデータは、サンプルデータとしては多めの25記事となっています。
 
作成したサンプルデータに対して「PMC」から指摘(修正)があった場合は、適切に対応し合格となるまでデータを送ります。
ただし、指摘(修正)への対応が3回を超えてしまった場合やサンプルデータに重大な問題があった場合は、申請を取り消される場合もあります。
サンプルデータの検証に無事合格すると、採択となりPMC掲載に向けた契約の手続きへと進みます。
 
ちなみに、「PMC」で審査に落ちてしまった場合も「MEDLINE」と同様に再申請は、2年経過しないとできません。
審査工程やXMLファイルの規定など、詳しくはPMCの以下URLにある参加方法やFAQページをご覧ください。
▽PMCへの参加方法
▽PMC FAQ
申請にあたっては、メールによる問い合わせ先もありますので、こちらも「MEDLINE」と同様に気になることは何でも遠慮なく聞けるようになっています。うれしいですね。
PMCの要点をまとめると次のとおりです。
 
💡
「MEDLINE」に比べて「PMC」は一定の審査を経て論文データのXMLファイルを正しく作成できれば、オープンアクセスジャーナルとしてウェブ公開できるだけでなくPubMedの検索対象にも含まれるサービスである。
 
最後にこれまでのまとめとして、またアトラスが実際にサポートしてきた経験もふまえて「PubMedで論文が検索されるようになるまで」についてお伝えしたいと思います。

申請先は「MEDLINE」?「PMC」?

これまでお伝えしてきましたように「PubMedで論文が検索される」には「MEDLINE」か「PMC」にジャーナルが収録されないといけません。
もし、編集委員会や理事会で「PubMedで論文を検索させる」といった話しになったとき、学協会様が最初に検討することは、申請先をどちらにするのか決めることです。
どちらに申請しても審査に落ちてしまった場合、再申請は最低2年経過しないとできないため慎重にご検討いただく必要があります。
「MEDLINE」と「PMC」の選定条件を検討してもらい、申請先が決まったら「MEDLINE」または「PMC」のアカウントをウェブサイトから作成します。
図4 MEDLINEとPMCのアカウント登録画面
図4 MEDLINEとPMCのアカウント登録画面
アカウントを取得できたら申請フォームへ必要な情報を登録していきます。
申請時に気になることがあれば、FAQも充実していますし直接担当者にメールで質問も可能です。
しっかりとした内容で申請できるよう、不明点は事前に質問しておきましょう。
無事に申請フォームから申請が完了したら、アカウント作成したメールアドレスへ申請完了メールが届きます。
申請までは「MEDLINE」と「PMC」に大きな違いはありませんが、ここから先はそれぞれ違いがありますので、これまでのサポートした経験をもとにご説明していきます。

「MEDLINE」の場合

申請後は基本的に審査結果を待つだけとなります。
前編でご説明したとおり常時レビュー制となっておりますので審査があり、具体的な日付は非公開となっていますが、審査が完了すると結果がメールで届きます。
審査の状況については、直接NLMの審査委員会へメールで問合せることもできます。
審査結果はPDFで届きます。もし不採択の場合でもNLMへ依頼するとさらに詳細なレポートを入手することができます。
これまでアトラスがサポートしたジャーナルの採択事例はまだありませんが、いっしょに申請に関わっていただいた編集委員の先生がNLMからの詳細レポートを見て、
「結果は残念でしたが、ジャーナルの質を向上させると言う意味では、何が足りていないのかを知る良い機会になったので、学会にとっては貴重な資料です。再申請までの2年間でしっかり対策を立てて、質の向上に取り組もうと思います。」
と仰っていたことが印象に残っています。

「PMC」の場合

申請が完了すると1か月以内にメールで審査結果が届きます。
採択となった場合は、届いたメールに次のステップとしてサンプルデータ(全文XML形式ファイル)を提出するように指示がありますので、XMLファイルを作成して提出します。
サンプルデータ提出後はPMC側での検証チェックがあり、修正点などはその都度担当者からメールが届きますので合格となるまでデータを修正します。
サンプルデータの検証完了後は、学協会様とPMCとの間で同意書を交わしてPMC掲載への契約を済ませます。
最後にジャーナル毎にPMC内の公開サイトが提供されますので、ヘッダーや学協会様のウェブサイトへのリンクなどを設定して論文を公開いただきます。
PMCでは、アトラスがサポートしたジャーナルで採択となったケースはありますが、申請からPMCで論文を公開するまでの期間としてはだいたい6ヶ月程度です。
ただ、COVID-19の影響で2020年以降は関連する数多くの論文がオンラインジャーナルとして公開されるようになりジャーナルの「PMC」申請が増加しました。
その結果、審査の基準は高くなってしまった印象があります。

PubMedで論文を検索してみよう

「PMC」に論文が公開された場合、PubMedで記事のタイトルなどを検索すると検索結果が表示されます。
PubMedでは、対象記事のタイトル・著者・所属・抄録などの書誌情報が見れます。また、画面右上の「FULL TEXT LINKS」に表示されている「PMC」のアイコンをクリックすると「PMC」のページが表示されて全文を閲覧することができます。
図5 PubMedからPMCへの画面遷移
図5 PubMedからPMCへの画面遷移

最後にPubMedへの掲載を検討されている皆さまへ

これまで「MEDLINE」と「PMC」の申請をサポートさせていただいた感想として、歴史と伝統による権威のある「MEDLINE」はとても狭き門です。
一方で「PMC」は、「MEDLINE」ほどの厳しい審査がなくサンプルデータがしっかりできれば、確実にPubMedで論文が検索されるようになりますので、まずは「PMC」への申請をおすすめします。
PubMedでジャーナルの論文が検索されるようになるまでは、簡単なことではありませんが、医学系ジャーナルという世界において皆さまのジャーナルがどのような立ち位置なのかを知ることができます。
 
また、申請フォームやPubMed担当者とのやり取りは英語となりますが、PubMedで論文が検索されるようになると海外からの問い合わせがありますので、編集委員の先生方や事務局のご担当者様は英語を含めたジャーナルの窓口として対応できる体制の準備も必ず必要となります。
このコラムを通して「MEDLINE」や「PMC」に収録に向けた取り組みを考えるきっかけになればと思います。
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