【前編】目指せPubMed掲載!医学系ジャーナルがPubMedに掲載されるためには?

現在アトラスは、おかげさまでさまざまな分野の学協会様とつながりがあります。
その中でも医学系の学協会様からは「PubMed(パブメド)」についてご相談いただくことがあります。
医学系の文献を探す際に多くの方が利用している「PubMed」で論文が検索できるようになるには、どのようなプロセスがあるのか。
実際にアトラスがサポートしたジャーナルの事例も踏まえ、「PubMed」の歴史や概要など、基礎知識とチェックポイントを2回にわけてお伝えしたいと思います。
「PubMed」とは何か:運営や関連性について解説
「PubMed」は、米国国立衛生研究所(以下、NIH)の配下にある米国国立医学図書館(以下、NLM)が所管する、生命科学や生物医学に関する文献検索サイトです。ウェブサイト自体の運用は、米国国立生物工学情報センター(以下、NCBI)が担っています。
「PubMed」が検索対象とする主なデータベースは、NLMが作成したMEDLINE、NLMが提供するBookshelf、NCBIが管理・運営するPubMed Central(PMC)の3つです。

この相関図から分かるように、「PubMed」で論文が検索されるようにするには、MEDLINEまたはPubMed Central(PMC)のいずれかに論文が収載されている必要があります。Bookshelfは英語の医学、生物学に関連する書籍やコンテンツを収録しており論文は対象外です。
MEDLINEを作成するNLMと、PubMedおよびPubMed Central(PMC)を管理・運営するNCBIなど、関係各機関の概要と関係性を以下に整理します。
表1 機関名と概要
| 機関名 | 略称 | 役割・概要 |
|---|---|---|
| アメリカ国立衛生研究所 | NIH | アメリカ合衆国の保健福祉省公衆衛生局の下にあり1887年に設立された最も古い医学研究の拠点機関で、現在はアメリカ国内にある20の研究所と 7つのセンターで構成されている政府機関です。 |
| アメリカ国立医学図書館 | NLM | 国立衛生研究所 (NIH) に20ある研究所の1つで、 世界最大・最古の医学図書館です。歴史は長いので割愛しますが1956年から現在の名称で利用されています。 |
| アメリカ国立生物工学情報センター | NCBI | 国立医学図書館 (NLM) の1部門として1988年に設立された機関で、分子生物学やバイオインフォマティクスの研究に用いられるデータベースの構築及び運営や、研究に用いられるソフトウェアの開発を行っています。 |

一見「PubMed」は1つの機関で運営されているように見えますが、実際にはNIHの配下で、データベースの作成主体とウェブサイトの運営主体が分かれています。

この違いは、「PubMed」で論文が検索可能になるまでのプロセスにも関係します。要点をまとめると次のとおりです。
「PubMed」は、MEDLINEとPubMed Central(PMC)に公開されている論文を検索するウェブサイトである。
そのため、「PubMed」への掲載を目指すにはMEDLINEまたはPubMed Central(PMC)に論文が収載される必要がある。
最も権威あるデータベース「MEDLINE」
次に、PubMedへ掲載されるための鍵の一つである「MEDLINE(メドライン)」の歴史と、収載される論文の選定方法・選定基準を紹介します。
「MEDLINE」は、NIH配下のNLMが管理・運用している医学・生物学文献の書誌情報(メタデータ)を収録したデータベースです。
原著論文の本文そのものではなく、タイトル・著者・抄録・キーワードなどの情報を検索対象としています。
MEDLINE誕生までの歴史
「MEDLINE」は1949年以降の生命科学に関する非常に広い範囲の文献をカバーしています。医学、薬学、看護学、歯学、衛生学、獣医学のほか、生化学、分子生物学、植物生理学、分子進化など、現代的な生命科学のほぼ全領域を含みます。さらに、ネイチャーやサイエンスなどの総合学術誌に掲載された関連分野の記事も対象で、医学・生物学を中心としたライフサイエンス分野のジャーナル記事3,100万件以上を収録しています。
この膨大なデータベースの源流は、1874年に作成された索引集「Index-Catalogue of the Library of the Surgeon-General」にさかのぼります。その後「Index Medicus」へと発展し、年々分厚い冊子体として刊行され、2004年まで発行が続きました。多くの図書館で所蔵されています。
1950年代には生物医学分野の発展にともない文献量が爆発的に増加し、紙媒体の索引発行や単一主題に絞った索引作成に限界が生じました。そこで1964年、「Index Medicus」を機械化したデータベース「MEDLARS(Medical Literature Analysis and Retrieval System)」が誕生。1970年代に入ると、専用回線等を用いたオンライン検索システム「MEDLINE(MEDLARS Online)」として有料提供が開始されました。1990年代にはインターネットの普及により、「MEDLINE」を無料で検索できる新システム「PubMed」が試験的に開始され、1997年6月26日に正式サービスが始まりました。
MEDLINEの選定方法および選定基準
それでは、「MEDLINE」に収載される論文はどのように決まるのでしょうか。
「MEDLINE」では、NIHの評議委員会が収載方針等を策定し、これまでのジャーナルの品質審査は「文献選択のための技術審査委員会(Literature Selection Technical Review Committee)」が年3回(2月・6月・10月)実施していましたが、2025年からこれまでの審査プロセスが見直されて、NLMスタッフによる常設レビュー制になっています。
審査プロセスが変更になりましたが、既収載誌の取り下げや新規追加についての基準は変わらず狭き門です。
また、NLMが「MEDLINE」に必要と認めたジャーナルは、NLM自ら購読し、選定プロセスを経て収載することもあります(日本のジャーナルにも該当例あり)。
審査は選定基準のスコアシートに基づいて実施され、適切な評価のために分野別の外部専門家の意見を聴取する場合もあります。
審査の結果、不採択となった場合は再申請までの待機期間が設定されています。初回は最低2年、2回目以降は最低3年が必要です。
選定においては、次の5つの要素に基づいて各ジャーナルを総合的に審査し、MEDLINEへの収録を決定します。
- Scope and Coverage(スコープと収録範囲)
- Editorial Policies and Processes(編集方針と編集プロセス)
- Scientific Rigor/Methodological Rigor(科学的厳密性と方法論的厳密性)
- Production and Administration(制作と管理)
- Impact(影響力)
それぞれの詳しい内容は、公式サイトをご覧ください。
申請手続きは、以下URLの専用申請フォームからNIHアカウントを取得し、入力フォームに必要事項を登録して完了します。
申請に関してはFAQのほか、電話・FAX・メールによる問い合わせ先も用意されています(英語のみ)。
まずは「MEDLINE」についての理解が少しでも深まれば幸いです。要点をまとめると、次のとおりです。
「MEDLINE」は、世界で最も権威ある医学・生物学文献の書誌情報(メタデータ)を収録したデータベースであり、収載されるためには、NLMが定めた基準を満たし、厳しい審査を通過する必要がある。
次回は、NCBIが運用するデータベースのPubMed Central(PMC)についてご紹介します。
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