ジャーナルの電子化、どこから手をつける?3つのパターンと事例から考える

こんにちは、編集長の堀田です!
今回はジャーナルの電子化に関するお話です。
「そろそろ学会誌を電子化したい。でも、どうやって進めていけばいいんだろう……」
「すでに電子公開はしているけれど、完全ペーパレス化にはなかなか踏み切れない……」
そんなお悩みを抱えている学会様は、少なくないのではないでしょうか。なんとなく変えたほうがいいと思っていても、実際に決断を下すのは簡単ではないと思います。
本記事では、ジャーナルの電子化を検討している学会の理事・役員のみなさまに向けて、国内の電子化の現状と進め方を事例とともにご紹介します。ご検討の参考にしていただけたら幸いです。
約64%の学会がすでに電子化に取り組んでいる?「電子化」の3つのパターンジャーナルをWeb上で公開するには?紙媒体を廃止するには?【事例1】日本リスク研究学会(②オンデマンド印刷パターン)【事例2】日本リハビリテーション医学会(③完全電子化(紙媒体ゼロ)パターン)【事例3】日本放射線技術学会(①ハイブリッドから②③への移行プロセス)【事例4】日本原子力学会和文論文誌(③完全電子化(紙媒体ゼロ)パターン)【事例5】日本細胞生物学会(①ハイブリッドパターンに近い完全電子化)【事例6】日本消化器外科学会(③完全電子化(紙媒体ゼロ)パターン)おわりに
約64%の学会がすでに電子化に取り組んでいる?
まず、日本のジャーナルにおける電子化の現状を確認しておきましょう。
- 全タイトルを電子ジャーナル化し、紙媒体では発行していない:16.1%
- 全タイトルを電子ジャーナル化しているが、紙媒体でも発行しているタイトルがある:24.7%
- 一部のタイトルを電子ジャーナル化し、紙媒体の発行も続けている:23.2%
- 電子ジャーナル化していないが、電子ジャーナル化を予定・検討中である:11.4%
- 電子ジャーナル化しておらず、現時点で電子ジャーナル化の予定はない:24.6%
この結果を整理すると、電子化に取り組んでいる学会(1+2+3)は全体の約64% にのぼります。一方で「電子化の予定がない」学会も約25%残っており、電子化の進捗には学会間でばらつきがあることもわかります。
また、電子化している学会のうち、紙媒体を完全になくしているのは16.1%にとどまり、残りの約48%は電子と紙の両方を継続している状況です。電子化イコール紙媒体廃止ではなく、両方を並行して運用しているケースが現時点では多数派といえます。
「電子化」の3つのパターン
先述の通り、電子化を進めている学会の中にも、紙媒体を発行していない「完全電子化パターン」と、電子と紙の両方を継続している「ハイブリッドパターン」があることが分かります。
また、「完全電子化パターン」の中には、希望者には有料で印刷対応する「オンデマンド印刷パターン」も含まれます。
つまり、一口に「電子化」と言っても以下の3つのパターンに大別できます。
ジャーナルの「電子化」の3つのパターン
①Web公開しつつ、紙媒体の発行も継続している
②紙媒体を廃止し、Web公開を基本とするが、希望者には有料で紙媒体を発行している
③一切の紙媒体を廃止し、Web上でのみ公開している
検討を進める際はどの「電子化」を指しているか関係者の間で認識を合わせることが大切になりそうです。
ここからは具体的な電子化の進め方について見ていきます。
ジャーナルをWeb上で公開するには?
J-STAGEは国立研究開発法人科学技術振興機構 (JST) が運営する電子ジャーナルプラットフォームで、国内の2,400を超える発行機関が、4,000誌以上のジャーナルや会議録等の刊行物を公開しています。
発行機関(学会等)も閲覧者も基本的に無料で利用できることが大きな特徴で、初めてのWeb公開でも検討しやすいプラットフォームです。
J-STAGEのサービス利用申込についての詳細は以下のページをご確認ください。
紙媒体を廃止するには?
おそらく、多くの学会様が頭を悩ませているのはこちらだと思います。
電子化のメリットが大きいと分かっていても、紙媒体には紙媒体のメリットがあるため、結局どちらも用意するという状況が続いている学会様も多いのではないでしょうか。
また、先述した国立国会図書館の学協会向けアンケート結果では、デジタル化していない理由として最も多かった回答が「予算・人員がないため」でした。電子化にはシステム導入や運用体制の整備が必要になるため、実施したくてもなかなか踏み切れないという学会様も少なくないようです。
今回は、紙媒体廃止を実現した学会の事例から、検討を進めるためのヒントをお伝えできればと思います。
「予算・人員がないため」電子化に踏み切れない学会も多い中で、コスト削減のために電子化に踏み切った事例もあります。コスト面で頭を悩ませている学会様もぜひ参考にしていただければと思います。
なお、ここでご紹介するのはいずれも、各学会がウェブサイト等で公開している情報をもとにまとめたものです。詳細は各事例の関連リンクからご確認ください。
【事例1】日本リスク研究学会(②オンデマンド印刷パターン)
まずご紹介するのは、会員の声を丁寧に拾いながら移行を進めた事例です。
日本リスク研究学会では「日本リスク研究学会誌」について、2019年にまず会員向けアンケートを実施して意見を幅広く収集することから検討をスタートしていました。
「図書館に置かれなくなる」「会員メリットが減る」といった懸念の声も出ましたが、一つひとつ丁寧に回答を公開。「冊子体を希望する会員にはオンデマンド印刷で1冊2,000円程度で対応する」という代替案も用意し、翌2020年度から移行を実現しました。希望者には紙を残すという選択肢を用意したことで、反対意見をやわらげながら踏み出せた点が参考になります。
関連リンク
- 「日本リスク研究学会誌の電子ジャーナル化への移行と紙媒体(冊子体)によるご提供の中止」についてのご意見の募集
- 会員からの意見を募集するとともに、電子化のメリット、デメリットを明示しています。
- 日本リスク学会 電子ジャーナル化への移行と紙媒体(冊子体)によるご提供の中止,学会誌の名称変更について
- 質問や意見に対して真摯に回答。また、冊子体を希望する会員には追加料金を負担いただくことで冊子体を提供するという代替案も提示しています。
【事例2】日本リハビリテーション医学会(③完全電子化(紙媒体ゼロ)パターン)
続いては、どの学会にも共通する「コスト」を理由に、紙媒体を完全に廃止した事例です。
日本リハビリテーション医学会では、国内誌について2024年1月から冊子体配布を廃止し、完全オンライン化へと移行しました。
移行の理由として明示されているのが、昨今の物価高騰にともなう制作費・送付経費の増大です。学会の財務状態を一層安定させる必要があるとの判断から、編集委員会や理事会で検討を重ね、2023年6月の代議員総会および学術集会での会員報告を経て決定に至りました。先ほどのリスク研究学会が「会員の声」から入ったのに対し、こちらは「財務」という切り口から検討を始めた点が対照的で、どの学会にも当てはまる事情を背景に明確なプロセスを踏んだ事例といえます。
関連リンク
- 国内誌の完全オンライン化のお知らせ
- 物価高騰による経費増大という廃止理由と、代議員総会・学術集会での報告という意思決定プロセスを明示している。
【事例3】日本放射線技術学会(①ハイブリッドから②③への移行プロセス)
「とはいえ、いきなり全部やめるのは不安……」という学会様の参考になるのが、段階を踏んで移行を進めている事例です。
日本放射線技術学会では、毎月発行している和文誌について、81巻1号(2025年1月発行)から学術論文ページおよび学術大会予稿集を完全電子化しました。
編集委員会は理事会の答申を受け、和文誌のペーパーレスを伴う完全電子化を目指しています。理由として、紙代・印刷費用・輸送費用の高騰に加え、それ以上に「世の中のデジタル化の潮流が速く、学術団体や学術雑誌においても避けられない状況」であることを挙げています。注目したいのは、いきなり全廃するのではなく、まず予稿集の電子化、次に学術論文ページの電子化と、段階的に進めている点です。一度にすべてを変えなくてよいという安心材料になる事例です。
関連リンク
- 日本放射線技術学会雑誌 電子版の紹介
- 完全電子化を目指す理由(コスト高騰とデジタル化の潮流)と、予稿集から段階的に電子化を進める方針を説明している。
- 和文誌冊子体 学術大会予稿集および学術論文ページの完全電子化について
- 和文誌の学術論文ページ・予稿集の完全電子化について案内している。
【事例4】日本原子力学会和文論文誌(③完全電子化(紙媒体ゼロ)パターン)
続いては、紙媒体の完全ゼロを実現しつつ、会員への還元という一工夫を加えた事例です。
日本原子力学会では、和文論文誌について2022年6月号(Vol.21, No.2)から冊子体の発行を完全に取りやめ、J-STAGEでの電子版のみの発行へと移行しました。希望者へのオンデマンド印刷も設けない、紙媒体ゼロの完全電子化です。
注目したいのは、冊子体を廃止することによる経費削減分を、掲載料の減額という形で会員に還元している点です。これにより、会員からの反発をやわらげることにつながったのではないかと推測できます。なお同学会の学会誌「ATOMΣ」については、2025年4月号から会員向けを電子版に切り替えつつ、研究機関・大学・行政・報道機関など外部への配布は冊子体を継続するというハイブリッド型を採用しており、同じ学会の中でも誌の性格や読者層に応じて対応を使い分けている点も参考になります。
関連リンク
- 和文論文誌の電子ジャーナル化と冊子体配布の廃止のお知らせ
- 冊子体の廃止とともに掲載料の減額をお知らせしている。
- 理事会だより(2025-01-31)
- 学会誌「ATOMΣ」の電子化移行にあたっての検討内容を退会者の試算から会員アンケートでの否定的な意見まで赤裸々に公開。
【事例5】日本細胞生物学会(①ハイブリッドパターンに近い完全電子化)
続いては、なんと今から20年以上前の2005年に電子化を実現した事例になります。
日本細胞生物学会では、創刊以来30年の歴史を持つ英文学術論文誌「Cell Structure and Function(CSF)」を、2005年という早い時期に電子ジャーナルへ移行し、隔月刊の冊子体を廃止しました。これまでの事例の中でも、群を抜いて早い時期の取り組みです。
当初、CSFは編集・印刷・送本などに多大なコストがかかっており、論文掲載数が増えるほど赤字が増えるというジレンマも抱えていたことから、事実上の廃刊が検討されていました。
しかしながら、「日本発の学術成果の大部分が海外の商業誌に依存している」ということが問題にされつつある中、国内のジャーナルがこれから果たすべき役割は大きいと判断し、完全電子ジャーナルとして復活することとなりました。完全電子化の恩恵は財政的な負担を減らすことだけにとどまらず、投稿から発表までのフローの高速化など、ジャーナルの価値向上につながる可能性も示されています。
関連リンク
- 学会誌の電子ジャーナル化から冊子体の廃止まで―日本細胞生物学会Cell Structure and Function誌の場合
- 学会の立場から、電子化・冊子体廃止という決断に至った経緯と狙いを論じた記事。
【事例6】日本消化器外科学会(③完全電子化(紙媒体ゼロ)パターン)
こちらも2011年という早期に完全電子化を実現した事例です。
日本消化器外科学会では、数年来の検討を経て、2011年1月から「日本消化器外科学会雑誌」の紙記録版(冊子体)の印刷・製本を完全に取りやめ、J-STAGEでの電子版のみの発行へと移行しました。会員への学会誌発送も終了し、希望者向けの冊子体提供も行わない完全電子化です。
日本放射線技術学会と同じく、まず総会抄録集のオンライン化から着手し、段階を踏んで会誌本体の完全電子化に進みました。電子出版のメリットとして、採用決定から論文公開までの期間短縮や、著者負担なしでのカラー図表掲載が可能になる点を会員に説明しています。医学系の大規模学会が、早い時期に希望者対応も設けない完全電子化へ踏み切った事例です。
関連リンク
- 電子出版について
- 完全電子化の経緯と、電子出版のメリット(公開期間の短縮、著者負担なしのカラー化など)を具体的に説明している。
- 学会誌発送終了のお知らせ
- 冊子体の印刷・製本・発送を終了し、電子版へ移行することを会員に改めて告知している。
どの事例にも共通しているのは、「いきなり強行する」のではなく、誌の性格や読者層を踏まえたうえで段階的に合意を形成したというプロセスです。図書館・機関会員への対応についても、電子版の閲覧ルート案内やオンデマンド印刷といった選択肢をあらかじめ用意しておくことで、反対意見が出たときに具体的に答えられるようになります。
おわりに
今回は、ジャーナルの電子化をめぐる現状と、紙媒体廃止を実現した学会の事例をご紹介しました。
電子化と一口に言っても、「Web公開しながら紙も継続する」「希望者にはオンデマンドで対応する」「冊子体を完全にゼロにする」と、さまざまな形があります。どれが正解というわけではなく、学会の規模や会員構成、誌の性格によって最適な選択は異なります。
ただ一つ確かなのは、「電子化するかどうか」ではなく「どう進めるか」を考える段階に来ているということです。国立国会図書館のアンケートでも、電子化に取り組んでいる学会はすでに全体の約64%というデータがありました。また2025年度からは、公的研究費を受けた論文への即時オープンアクセス義務化も始まっており、電子ジャーナルとして発行されていない雑誌は投稿者から選ばれにくくなるという現実もあります。
少しでもこれから電子化の検討を始める学会様の参考になれば幸いです。
当コラムについて
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