プレプリントとDOI
こんにちは、ジャーナルサポート担当の小池です。
研究成果をできるだけ早く世に届けたい、という思いを抱く研究者の皆さんにとって、プレプリントは強力な手段となっています。正式な査読前でも、すぐに成果を広く公開し、フィードバックを得られるプレプリントには、DOI(Digital Object Identifier)が付与され、引用もしやすくなっています。また、論文のバージョン管理や、研究の進展を追跡する上でDOIが果たす役割は大きくなっています。今回のコラムでは、プレプリントとDOIについて紹介します。
プレプリントをプレプリントサーバーに公開する目的は何でしょうか。
論文が正式に公開されるまでには時間がかかります。プレプリントは研究成果を早く公開し、広く読まれることにより、フィードバックを得やすくし、よりよい研究につなげるために活用されています。また、プレプリントで公開した論文でも投稿を受け付けるジャーナルが増えて来ているため、論文公開後、研究の新規性をアピールするためにプレプリントサーバーで公開するメリットがあります。なんとなくプレプリントは気軽に公開されているのかな?というイメージがありますが、一度公開したあとは通常どおり論文公開のお作法を踏襲しているようです。撤回はできますが、撤回理由を明示することや、基本的なメタデータは削除されずに残る仕組みをとっています。
正式版の論文を元にプレプリント版までトレース可能となれば、早く世に公開した著者の価値になりますね。そこでDOIの存在感が出てきます。
プレプリントのDOI
ほとんどのプレプリントサーバーでは公開時DOIが付きます。DOIが付くということは、メタデータが流通し発見されやすくなると言うメリットがあります。DOIといえばCrossref。Crossrefでは以下のようにコンテンツのバージョン管理について説明がされています。
バージョン | 意味 |
---|---|
Draft | ドラフト |
Preprint | 研究者がプレプリントサーバー等で共有した初期のドラフトや原稿(特定のジャーナル以外のもの)。 |
Pending publication (PP) | 受理されたがオンラインで公開されていない原稿。 |
Advanced online publication or ahead of print (AOP) | 出版社が自社のプラットフォーム上で読者に提供する早期の出版物(組版前または最終的な出版物になる前)。 |
Author accepted manuscript (AAM) | 査読を経て受理されたが、英文校閲や組版が行われていないもの。 |
Version of record (VoR) | 英文校閲、組版され、公開されたバージョン。 |
Updated | 補足データの追加や修正、または撤回のこと。 |
そしてDOIをどの段階で割り当てるべきかについても説明があります。
バージョン | DOIの対象となるのか? | どのDOI? |
---|---|---|
Draft | No | – |
Preprint | Yes | DOI A |
Pending publication (PP) | Yes | DOI B |
Advanced online publication or ahead of print (AOP) | Yes | DOI B |
Author accepted manuscript (AAM) | Yes | DOI B |
Version of record (VoR) | Yes | DOI B |
Updated | Yes | DOI C |
- ドラフト(未発表)のコンテンツにはDOIを割り当てるべきではない。
- プレプリントは独自のDOI(DOI A)を持つべきである。
- Accepted version(PP、AOP、AAM、VoRを含む)には、別のDOI(DOI B)を設定する。DOI BとDOI Aの間には、DOI B “hasPreprint” DOI Aのような関係を確立して、両者のつながりを示す。
- 公開されたバージョンが大幅に変更された場合は、修正/更新/撤回を説明する通知を公開する必要がある。更新版には新しいDOI(DOI C)を付けるべきである。更新は、コンテンツの解釈やクレジットに影響を与える可能性が高い変更(editorially significant changes)についてのみ寄託すべきであり、単に関係性を主張するのではなく、これらをCrossmarkを用いて記録すべきである。
ちなみにプレプリントの改版があった場合は、新しいDOIを割り当て、メタデータにisVersionOfタイプのリレーションを記述しバージョンを関連付ける必要があるとのことです。また、表中のDOI B以降はCrossmarkの対象ですが、プレプリントのDOI Aは対象外です。
おわりに
プレプリントのDOIについて考察するために執筆した本コラムですが、多くの学びが得られました。プレプリントのDOIは、論文受理後のDOIとは明確に区別して管理されています。しかし、各DOIのメタデータに適切な関係性が登録されている場合、プレプリントがどのように改訂され、最終的にジャーナル論文として出版されたかを追跡することが可能です。また、DOIの付与により、引用数や被引用数の分析、さらには研究助成の効果測定が機械的に行えるという利点もあります。今後、従来のジャーナル出版のメリットを活かしつつ、課題を解決する新たな仕組みや、プレプリントが研究に与えたインパクトを評価できるようなサービスの登場が期待されますね。
以上、プレプリントとDOIについて調べてみました。