学術論文や研究データにDOIを付けるための流れをいちから解説します!
こんにちは。ジャーナルサポート担当の朴です。
最近、お客様から「DOIを付けたい」とご相談をいただくことが増えました。
DOI(Digital Object Identifier)とは、オブジェクトに付与するデジタルな識別子です。DOI登録者にはDOIに紐づくインターネット上のコンテンツのURL(ランディングページと言う)を適切に管理することが義務付けられているため、、DOIの利用者はコンテンツに永続的にアクセスできます。
学術論文の電子化が進む昨今においては、DOI自体は知っている方が多いかもしれません。
しかし、いざ自機関で公開するコンテンツにDOIを付与したいと思った場合、どうしたらいいか分からないという方も多いのではないでしょうか?
今回は、学術論文や研究データなどにDOIを付ける方法や手順について解説していきたいと思います。
DOIを付けて運用するための手順を簡単に書くと下記になります。
- DOI登録機関(RA: Registration Agencies)のメンバーとなる
- DOIとURLとコンテンツのメタデータを登録する
- 費用を支払う
一つずつ解説していきます。
DOI登録機関(RA: Registration Agencies)のメンバーとなるDOI登録機関(RA: Registration Agencies)とは?どのRAがいいの?国際会議の場合は要注意JaLCの会員制度について正会員準会員DOIとURLとコンテンツのメタデータを登録する正会員の場合JaLCのコンテンツタイプランディング先のURLとDOIの粒度コンテンツの登録方法J-STAGEに公開する場合(準会員)費用を支払うJaLCの費用正会員準会員Crossrefの費用DataCiteの費用まとめ
DOI登録機関(RA: Registration Agencies)のメンバーとなる
DOI登録機関(RA: Registration Agencies)とは?
DOI登録機関(以下、RA)は、国際DOI財団に認定された機関です。DOIを登録するには必ずRAを通す必要があるため、DOIを付けたいのであれば任意のRAのメンバーになる必要があります。
2024年11月現在、RAは世界に12機関ありますが、今回は代表的なRAを3つご紹介します。
- Crossref……DOI登録件数が圧倒的に多い国際的なRA。あらゆる学術コンテンツにDOIを付与する。
- DataCite……英丁蘭加米独の6か国で組織される国際的なRA。あらゆる学術コンテンツにDOIを付与する。
- JaLC(Japan Link Center)※ジャルクと読みます……日本で唯一のRA。日本国内で公開された学術コンテンツ(雑誌論文、学位論文、書籍(報告書)、研究データ、e-learning等)にDOIを付与する。
どのRAがいいの?
RAによって組織体制や費用、各RAの提供サービス等が異なるため、どのように決めればいいか迷うかもしれません。登録コンテンツ数からすると、CrossrefやDataCiteがいいでしょう。しかし、残念ながらCrossrefやDataCiteは日本の機関ではありません。問い合わせや手続きを英語で行うことはハードルが高く、何かと不便を感じることも多いかと思います。
JaLCは日本で唯一のRAなので、日本語でサポートが受けられるという点が大きなメリットです。また、一番のポイントはJaLCのメンバーになれば、JaLCに登録したデータをもとにCrossrefやDataCiteのDOIが付与できるということです。JaLCはRAでありながら、CrossrefやDataCiteのメンバーでもあるので、そのようなことが可能になっています。
国際会議の場合は要注意
ということで、「どのRAがいいの?」という問いに対しては基本的にはJaLCのメンバーになることがおすすめです。ただし、JaLCの会員資格には、「日本国内の法人又は団体であること」という記述があります。
国際会議のProceedingsなどにDOIを付与したいという場合、運営母体が日本国内に無い場合も多いかと思います。その場合は、残念ながらJaLCのメンバーになることはできないため、CrossrefやDataCiteのメンバーになることをおすすめします。
JaLCの会員制度について
JaLCのメンバーになる場合、「正会員」と「準会員」という二つの区分があります。正会員と準会員でデータ登録の流れが異なり、図に表すと下記のようになります。
正会員
「正会員」はコンテンツの書誌情報などを直接JaLCに登録し、DOIを取得できます。
また、書誌情報やDOIを使用してJaLCに登録されている全てのデータに対して検索を行い利用することもできます。
ただし、正会員になるには以下の要件を満たさなければなりません。
- 日本国内の法人又は団体であること
- JaLC の目的及び事業を理解し賛同すること
- 以下のいずれかの一つに該当すること。
- コンテンツを発行又は提供していること
- コンテンツに関するデジタルアーカイブその他の電子サービスを行っていること
また、正会員にはDOI永続性担保義務が生じます。DOIが付与されたからと言って、コンテンツが公開されているURLが変わった時に何もしなければ永続的なアクセスは担保されません。DOIの永続性を担保するためには、DOIを維持管理する必要があるため、組織体制などを鑑みて、維持管理が難しい場合は準会員になることをおすすめします。
準会員
「準会員」とは、正会員を通じてコンテンツの書誌情報等をJaLCに登録した機関のうち、以下の要件のいずれかに該当する機関のことです。正会員と共にJaLCを支えるメンバーとして「準会員」と呼ばれます。
- 自機関でJaLCに登録したデジタルコンテンツを管理している機関
- 独自のプレフィックスを持つ機関
準会員は取りまとめ機関である正会員を通し、正会員が設定した条件に従ってコンテンツにDOIを登録することができます。
なお、取りまとめ機関の設定している条件というのは、その機関により様々ですので詳しく聞きたい場合は該当機関に直接お問い合わせが必要です。
注目すべきは、取りまとめ機関に国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が入っていることです。JSTが運営するJ-STAGEに採択されると自動的にJaLCの準会員になります。
J-STAGEの利用は無料ですので、無料でDOIを有効化することができ、DOIの登録もDOIの維持管理もJ-STAGEが実施するため、正会員になる場合と比べて大きく手間を減らすことができます。
ただし、2024年11月現在、J-STAGEの新規利用申込で原則JaLCのDOIを選択するように記載されており、CrossrefのDOIを使用するには条件があるようです。特に和文誌はJaLCのDOIのみ選択可能となっているようですので、CrossrefのDOIを選択したい場合はJaLCの正会員になるか、他の正会員の準会員となるかのどちらかになります。
DOIとURLとコンテンツのメタデータを登録する
さて、RAのメンバーになればいよいよコンテンツにDOIを付けることができます。ここからは実際にJaLCでDOIを付ける場合の説明をします。
正会員の場合
先ほど説明した通り、正会員としてJaLCのメンバーになった場合は、コンテンツの書誌情報などを直接JaLCに登録する必要があります。登録にあたっていくつか確認が必要になりますので順に説明します。
- JaLCのコンテンツタイプ
- ランディング先のURLとDOIの粒度
- コンテンツの登録方法
JaLCのコンテンツタイプ
JaLCでは5つのコンテンツタイプがあります。それぞれに選択可能なDOIの種類は以下の通りです。(JaLCでの審査で採択される必要があります)
コンテンツタイプ | 選択可能なDOIの種類 |
---|---|
ジャーナル論文 | JaLC、Crossref |
書籍・報告書 | JaLC、Crossref |
研究データ | JaLC、DataCite |
e-larning | JaLC |
汎用データ | JaLC |
ランディング先のURLとDOIの粒度
DOIはオブジェクトに付与される“デジタル”な識別子で、DOIにはコンテンツを説明するインターネット上のページ(ランディングページ)のURLを登録します。
ご自身の機関のWebサイト上にコンテンツが公開されているか、これから公開サイトを構築するかなどを事前に確認しましょう。
DOIを何単位に採番するかといった粒度も検討します。一般的には「一つのDOIにランディング先URLがひとつ」がわかりやすいと思いますが、既に公開サイトがある場合、一対一にできないケースもあるかと思います。
また、研究データではコンテンツ自体の更新頻度が高くランディング先の情報が日々更改されるなど様々なパターンがありますので、DOIを付ける単位を検討する必要があります。DOIの粒度はある程度自由度があるため、機関としてDOIを利用されやすい単位で付与することや、DOIの維持管理がしやすい単位とすることをおすすめします。研究データの場合は、研究データへのDOI 登録ガイドライン(DOI:10.11502/rd_guideline_2e_ja)を参考にしてください。
コンテンツの登録方法
JaLCへコンテンツを登録する方法は下記の3種類あります。それぞれのメリット・デメリットは以下の通りです。DOI登録対象が多い場合は、XMLでの登録が一般的です。
方法 | メリット | デメリット |
---|---|---|
JaLCのWebで登録 | 画面から入力できれば誰でも登録可能 | 大量のコンテンツ登録には向かない |
XMLでの登録 | 決められたフォーマットでXMLファイルを作成し、画面でアップロードしコンテンツを一括に登録可能 | XML作成の敷居が高い |
APIでの登録 | プログラミングし登録を自動化することや、自機関のシステムと連携しやすい | ・XMLファイルをAPIで登録するため、XML作成の敷居が高い ・APIを利用可能なスキルを持った人員が必要となり他の方法よりも難易度が高い |
J-STAGEに公開する場合(準会員)
ここまで見てきたのは正会員としてDOIを登録する場合に決めるべきことですが、コンテンツをJ-STAGEに公開する準会員の場合は、DOIの登録も維持管理もJ-STAGEが実施するため、必要な手間が少なくなります。
J-STAGEの利用にも審査があるため、どんな場合でもJ-STAGEを利用できるわけではありませんが、論文誌や予稿集の公開先としてJ-STAGEを検討される方は以下のページから利用資格や条件をご確認ください。
費用を支払う
最後に、DOIの登録にあたって必要な費用について説明します。
JaLCの費用
JaLCは年会費制がとられており、年会費はJaLC正会員に対してのみ発生します。準会員は取りまとめ機関の規定によりますので、取りまとめ機関に確認することになります。
正会員
JaLC正会員の年会費は、「コンテンツの累計登録件数」「営利機関かどうか」の2点によって以下のように決まります。
会員区分 | コンテンツの累計登録件数 | 会費 (非営利機関) | 会費 (営利機関) |
---|---|---|---|
A | 100,000件~ | 30万円 | 36万円 |
B | 30,000~99,999件 | 20万円 | 24万円 |
C | 10,000~29,999件 | 10万円 | 12万円 |
D | 3,000~9,999件 | 5万円 | 6万円 |
E | 0~2,999件 | 2万円 | 2.4万円 |
なお、JaLC経由でCrossrefやDataCiteのDOIを登録する場合は、上記の費用とは別にCrossrefやDataCiteへの実費が発生します。
準会員
JaLC準会員の費用は、取りまとめ機関である正会員が決定します。
J-STAGEを利用する場合はJ-STAGEがJaLCの正会員となり、準会員は無料でDOIを付与することができるのが大きなメリットです。
その他の取りまとめ機関を利用する場合の費用は、各取りまとめ機関にご確認ください。
Crossrefの費用
JaLC経由でCrossrefのDOIを登録した場合は1DOIにつき1ドル(3年以前のデータの場合は0.15ドル)の費用が発生します。
詳細・最新情報や直接Crossrefのメンバーになった場合の費用はFees - Crossrefをご覧ください。JaLC経由時の費用はCrossrefのContent Registration feesに基づいています。
DataCiteの費用
JaLC経由でDataCiteのDOIを登録する場合は、以下の費用が発生します。
- コンソーシアム機関費 500ユーロ
- DOI登録費 0.8ユーロ/1DOIあたり(前年DOI登録実績数により変動)
まとめ
今回はコンテンツにDOIを付ける方法や手順、検討すべきことを解説しました。
日本国内の団体であれば、日本語のサポートが受けられるため、JaLCのメンバーになることがおすすめです。
JaLCのメンバーになる場合も「正会員」と「準会員」の2択がありますが、主体的に自身のコンテンツを登録したり、JaLCに蓄積されているデータを上手く利用したいなどお考えの場合は「正会員」、DOIの登録や維持管理の手間を減らしたい場合は「準会員」など、自機関の状況に応じて使い分けていただければと思います。
個人的にはこれからDOIを付ける場合、「正会員」のJSTが運営するJ-STAGEに採択されると自動的にJaLCの「準会員」になりますので、J-STAGEに登載可能なコンテンツであれば、J-STAGEを活用するのがベターだと思います。
ただし、J-STAGEの登載にあたってもXMLデータの作成などが必要になるため、ややハードルを感じる方もいらっしゃるかもしれません。弊社ではJ-STAGE公開用のデータ作成・アップロード・公開作業のサポートも行っておりますので、お困りの方はお気軽にご相談ください。
DOIの付与方法について、少しでもお役に立てていたら嬉しいです!
参考:
JaLC入会のご案内はこちら(外部サイト)
J-STAGEサービス利用申込についてはこちら(外部サイト)