抄録集・予稿集・プログラム集のデジタル化を進めるコツと成功事例をご紹介
こんにちは!学術大会グループの髙橋です。普段は学術大会支援サービス『Confit』の導入コンサルタントとして、学術大会に関わる皆様をサポートしています。
さて今回は、学術大会における抄録集・予稿集・プログラム集などの制作物のデジタル化をテーマに書いていきたいと思います。
学術大会運営に携わる方の中には「紙媒体をどこまで用意すべきか」というお悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか?デジタル化が進む現代社会において、学術大会における抄録やプログラムの提供方法は、多くの学会が直面する課題となっています。この記事では、制作物の様々な提供方法や、デジタル化を実現した実際の学会の事例をご紹介します。
1. 学術大会における制作物の種類抄録集・要旨集予稿集プログラム集2. 制作物の提供方法紙媒体のみ紙とデジタルの併用プログラム集のみ紙媒体Web抄録を基本として、希望者にのみ紙の抄録集・予稿集を配布完全ペーパレス3. 紙媒体廃止の検討時によくある疑問と対策3.1 協賛企業の広告スペース減少への懸念3.2 参加者からのクレームへの不安4. 紙媒体廃止の具体的事例紹介会員向けアンケートを実施した学会の事例資源節約と実行委員の負担軽減を理由にした事例試験的に電子ファイルで予稿集を配布し、段階的に冊子体廃止を行った事例5. まとめ
1. 学術大会における制作物の種類
まずは、学術大会におけるプログラム関連の制作物にはどんな種類があるのか、ざっくりと見ていきましょう。
抄録集・要旨集
研究発表の抄録や要旨をまとめたものです。予稿集に比べると文章量は少ないですが、演題数が多い大会では数百ページのボリュームになることもあります。
予稿集
抄録や要旨だけではなく、発表の予稿原稿も含めてまとめたものです。各講演の原稿が掲載されるので、文章量・ページ数が一番多くなります。また、発表者からの取り下げや修正依頼の対応により校了に時間を要することがあります。
プログラム集
大会のスケジュールや発表順序、日程表などが掲載されます。ページ数は少なく抑えられますが、発表内容の詳細が分からないという難点があります。持ち運びやすいコンパクトな形式のプログラム(ポケットプログラム)を採用している大会もあります。
大会によっても違いはありますが、主に上記の3種類が挙げられます。
2. 制作物の提供方法
先ほど説明した制作物はそれぞれ主に以下の4つの媒体で提供されます。
紙 | 実際に冊子体に印刷された制作物 |
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印刷せずにPDFファイルで提供される制作物 | |
Web抄録・抄録アプリ | 個別にシステムを構築したり、専用のWebサービスを利用することで検索機能などを備えたオンラインプラットフォーム |
CD/DVD/USBなどの外部記憶媒体 | 物理的なディスク・媒体にデータを移行して配布される制作物 |
実際には上記の4つを組み合わせて提供されることが多く、大きく以下の3つのパターンがあります。
紙媒体のみ
従来型の情報提供方法です。この方式ではPCやスマートフォンを持っていなくても、インターネット環境が無くても全情報を閲覧可能で、参加者にとって慣れ親しんだ形式となります。一方で、紙媒体に印刷する手間やコストが高く、情報更新や検索が困難、演題数が多い大会ではページ数が大幅に増えるため、持ち運ぶのが困難という課題があります。
紙とデジタルの併用
プログラム集のみ紙媒体
予稿集・抄録集はWebで公開し、プログラム集のみ冊子を作成し当日に会場で配布するパターンです。紙媒体の廃止を進めたいものの、いきなり完全ペーパレスは難しい学会向けの方法です。ただし、データを二重管理することになるため、紙とデジタルの情報の整合性を配慮する必要があります。
Web抄録を基本として、希望者にのみ紙の抄録集・予稿集を配布
基本的にはWeb抄録システムを利用し、事前に希望があった参加者にのみ紙媒体を用意するパターンです。参加者の好みに合わせた柔軟な対応が可能で、印刷コストも抑えられます。ただし、紙媒体の必要部数を事前に把握する必要があり、また印刷会社との調整や配布時の手間が発生します。この方式は、デジタル化へ段階的に移行する際の選択肢としても有効です。
完全ペーパレス
紙媒体は廃止し、すべての情報をデジタルで提供するパターンです。この方法では印刷費用などのコストが削減でき、環境への配慮として、SDGsへの取り組みとしても有効です。また、発表者の変更や原稿の差し替えがあった場合の情報の更新も直前・当日まで可能です。しかし、PCやスマートフォンに不慣れな参加者もいるかと思いますので、直感的でわかりやすいシステムであることが大切です。
それぞれメリット・デメリットがあるため、学会の規模や分野の特徴、参加者の年齢層などを考えながら選ぶ必要があります。しかしながら、昨今においては作業負担軽減や費用の観点からも、紙媒体廃止の方向に舵を切りたいという学会様も多いのではないでしょうか。
3. 紙媒体廃止の検討時によくある疑問と対策
いざ紙媒体をやめることを考えたとき、なかなか踏み出せないことが多いのも事実です。多くの学会様では以下のような懸念が挙がります。
3.1 協賛企業の広告スペース減少への懸念
「紙媒体がなくなると、協賛企業への広告スペースの提供が難しくなるのではないか」というご懸念をお持ちの方も多いかと思います。対策として、プログラム集のみを紙媒体として残し、そこに広告スペースを確保する方法もあります。また、デジタル媒体を活用した新しい形式の広告を提案することもひとつです。これらの方法により、協賛企業への価値提供を継続しつつ、デジタル化のメリットも活かしていくことが可能です。
3.2 参加者からのクレームへの不安
「紙媒体がなくなった場合、参加者からのクレームが懸念される」という不安を抱えていらっしゃる方も多いかと思います。しかしながら、実際にデジタル媒体を通じて情報を提供した場合、予想に反して好評を得るケースも多々あります。デジタル媒体の利点として、情報の検索性や更新のしやすさ、情報の持ち運びのしやすさなど、メリットがたくさんあります。こういった変化は、意外と参加者の方々に高く評価されることも多いです。
不安がある場合は、会員にアンケートを実施することをお勧めします。参加者の意見を直接聞くことで、参加者のニーズを知ることができますし、賛成意見が多く寄せられた場合は、その結果をデジタル化の大義名分とすることもできます。
4. 紙媒体廃止の具体的事例紹介
会員向けアンケートを実施した学会の事例
日本地質学会では、学会誌の効率化と利便性向上を目指し、慎重なアプローチを取りました。まず最初のステップとして、会員の意見を広く集めるためのアンケート調査を実施しました。その結果、多くの会員から抄録集のWeb化に対して前向きな意見が寄せられたことを受け、従来の冊子形式を廃止し、より使いやすいWeb抄録システムへの移行を決定しています。
資源節約と実行委員の負担軽減を理由にした事例
日本鳥学会では2024年度から「講演要旨集」の印刷物作成を止め、PDF版のみとしたようです。以下の大会ページによると、紙資源の節約と大会実行委員の負担軽減を目的としたことが書かれています。(参考:日本鳥学会2024年度大会)
環境への配慮や働き方改革といった側面でも、印刷物の廃止は時代の流れに合っていると言えるため、理解を得られやすいのではないかと思います。
試験的に電子ファイルで予稿集を配布し、段階的に冊子体廃止を行った事例
日本気象学会では、まず予稿集の電子ファイル(CD-ROMやPDFなど)での提供を試験的に行いました。この試みに対して会員へアンケートを実施したところ、非常に良い評価を得ることができ、電子ファイルのみの提供で十分だという意見も数多く寄せられたようです。これらの前向きな反応を受けて、冊子体の予稿集を完全に廃止することを決定しました。
これらの事例を見ると、各学会では会員の意見に耳を傾けながら、それぞれの学会の特徴や会員のニーズに合わせて、段階的な移行を進めていることが分かります。
5. まとめ
今回は抄録集・予稿集・プログラム集などの学術大会の制作物に関する選択肢と、印刷物廃止の事例について紹介しました。近年、デジタル化を推進する学会が増えていることは間違いありませんが、強引なペーパレス化は会員の満足度や利便性低下につながる可能性もあります。それぞれの学会の規模、会員の年齢層、学術分野の特性などを考慮しながら、最適な方法を慎重に検討することが大切です。
しかし、中長期的な視点で見ると、デジタル化がもたらすメリットが非常に大きいことも事実です。情報へのアクセスのしやすさ、データの永続的な保存、環境への配慮、そして運営コストの削減など、様々な利点が挙げられます。デジタル化を進める際は、この記事で紹介した事例や対策が参考になれば幸いです。
また、デジタル化を検討される際は、永続的な公開プラットフォームを選ぶことも重要な要素となります。アトラスが提供する学術大会支援サービス「Confit」も公開プラットフォームとして多くの学会様にご利用いただいています。ご興味のある方はぜひご連絡ください。
最後までお読みいただきありがとうございました。
次回のお役立ちコラムも乞うご期待!